結局、彼女は子供と実家で暮らすようになった。彼は週末だけ妻子に会いにやってくるものの、あとはどこで何をしているのやら、風来坊のような生活だ。そんな彼女を見ると、私は責任を感じてしまう。あのとき、堅実な彼との結婚を強くすすめていれば、こんなことにはならなかったのだろうか。ところが、彼女は「ううん、気にしないで」と、首を振る。今の生活に完全に満足しているわけではないけれど、予定通り結婚していたら、もっともっと不満だったに違いないというのである。「もう少ししたら職場に復帰して、バリバリ働くわ。そして、旦那を食わせてやるの。あの人、書きたいことがあるんだって」と言う彼女の顔は、けっこう明るい。私にはそれが救いだ。「結婚すると、男の財布は妻の財布になる」と言う人は多い。けれども、なかには自分の財布を誰にも渡さない人もいる。それどころか、彼女の夫のように、財布の存在さえ忘れているような男もいる。普通だったら、即離婚となりそうなものだが、彼女は離婚しない。それはきっと、結婚前にその兆しを充分に感じていたのに、あえて彼を選んだからだろう。いわば、財布を渡されないことを納得した上での結婚だったのだ。男の金銭感覚は、結婚前に推測することができる。そして、それを納得することは、結納や結婚指輪以上の存在となって、その後の結婚を継続させていく力となるようだ。だから、財布を開けるときの彼から目を離してはいけない。たかが財布なんてとあなどっていては駄目だ。デートのあと、キャッシャーの前にいる彼は、単にお金を払っているわけではない。あなたにその後の結婚生活がどんなものになるか教えてくれているのだ。
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